真言宗豊山派刊の「梵字入門第五版」250 冊を贈呈したと記事を書きました。令和3年2021年12月1日 「梵字入門」第5版 梵字のお手本書 https://fukushoji-horifune.net/blog/archives/10526 贈呈させて頂きました〇蔵司〇〇様からお礼のメール(茶色部分)を頂きました。書評とも言うべき内容で、ご許可を頂きましたのでアップ致します。心から感謝申し上げます。なお、私のお寺運営にもご意見を頂いています。
先日、田久保海誉先生より周誉先生の43回忌の追善のために発行された「梵字入門」を頂きました。誠に貴重な御本を頂き感謝しております。
私の母の実家が九州の真言宗のお寺であったため、梵字は子供の頃から見慣れていましたが、実際に筆をとって書き始めたのは5年半ほど前です。技術が幼稚なのか性格に問題があるのか、なかなか上達できませんが、高野山大学で先生に教わり、以後楽しく練習を続けています。
今は書店やアマゾンで梵字のマニュアルらしきものは簡単に入手できますが、本の全てが正確なサンスクリット語の知識に基づいているとは言えないようです。周誉先生の時代は、教科書的な正しい入門書はまだ少なく、この本の出版も大事業だったのではないでしょうか。梵字学習者にとっては数少ない有難い本であったと想像できます。
字体は慈雲流のようで、内容は初心者に良く分かるよう丁寧に説明がされていて、後半には種々のご真言も掲載されていますから、中級の人も学べるような内容と思いました。この本だけで梵字を独学するのは厳しいかもしれませんが、梵字習得も元々は師匠からの教えあってのものですから、周誉先生はきっと大勢の僧侶にご指導されたことと、その並々ならぬ情熱やサンスクリット語の知識に驚かされます。
この本で学んだ先人の方々の努力は私の比ではないでしょうが、梵字がインドから中国に伝播して最後に空海によって日本に辿り着き、現在は日本にしか残っていないという古い歴史を考えると、僧侶以外の人々が興味を持って鑑賞するだけでも、大きい意味があるように思います。
周誉先生はこの本を執筆された昭和45年、何を考えながら原稿を書いておられたのでしょう。慈雲流のようですから、やはり慈雲尊者を思いながら執筆しておられたのか、想像すると感慨深いものがあります。
思えば世界の四大文明は全て特有の文字を持っていましたが、文字の持つ宇宙観というものを慈雲尊者など梵字悉曇研究者たちは知っていたのでしょうか。
彼らは書道としての梵字の書法確立に努めただけでなく、サンスクリット語の研究に努め、それが宗教的精神の高さと相俟って、優れた業績を残されたのだと思います。
十三仏種字など梵字は一文字一文字に仏教的意味があることがあり、それは仏像に匹敵するようなビジュアル系のシンボルとも言えそうです。梵字には文字そのものが持つアートとしての美があるだけでなく、見る人によっては救いや祈りとなるかもしれません。
周誉先生もそうですが、梵字悉曇学の先人は、狭い道に分け入り、高みを極めるために命をかけて進んだ、その先に珠玉の喜びがあったと想像できます。
百年以上の時を経てなお、慈雲などの梵字悉曇学者没後に多くの有能な継承者たちが、秀でた手腕をもってその伝承に尽力されました。そして、二十一世紀の現代まで日本仏教の中でこの独特の文字が生き続けているという点に、宗教的極み、普遍の精神性を感じずにはいられません。